□ 呪文 □

 プルルルル

「はい…」
『もしもし、お父さんかお母さんいるかしら』

 受話器からは、やかましい女の声。

「申し訳ございませんが、
共に留守にしております」
『そう…。
 ねえ、聞かないの?』
「は…」
『用件は聞かないの?
 聞きたくないの?
 聞かなくて良いのかしら?』

 やかましい女。
云いたきゃ云えよ。

「ご用件、お伝え致しましょうか」
『そうそう。それでいいの』

 背筋がぞっとした。
 しまった。

『×××』

 遠くから、低い低い音がした。
 息が、出来なくなっていた。