□ 贄 □
「泣かないで。あたしならいいの」

 電話越しに聞こえた彼女の穏やかな声に、
 僕は涙を止めることが出来なくなっていた。
 昨夜遠くから見つめた、
 美しい衣装に身を包んだ少女は、
 もはや名すら呼ばれず、
 ただ人形として櫓の上に飾られていた。

「泣かないで、仕方ないのよ」
「だからって…」
 あんな狂った奴等の為に、
「…君が殺されてやらなくたって」
「違うわ」

 冷たく言い放ち彼女は続けた。

「あたしは、アイツ等を地獄に堕とすために死ぬのよ」
 違うんだ。
 誰か、この涙を止める術を教えてくれ。

「僕は君を救けたかった」
「いいのよ、もう」
「違うんだ…僕は…」

 僕は君を…